監修:中野陽介(なかの・ようすけ)さん
公認会計士・税理士
多くの企業や事業者に対して、会計・税務支援やコンサルティングを行う。
「医療費控除」は、一年に10万円以上の医療費を支払った人が対象です(※1)。
控除対象になる「医療費」に含まれるのは、診療・治療費、医薬品代(市販薬を含む)です。ご家庭に常備している家庭薬も対象かもしれません。見落としがちですが、通院にかかった電車、バス、タクシー代(※2)などの交通費も。ただし自家用車で通院する場合のガソリン代は対象外です。
また、ご自分だけでな生計を一にしている家族の医療費を合算できます。たとえばご自分の医療費が8万円、子どもの医療費が7万円であれば合わせて15万円になり、医療費控除の対象になります。
この場合、15万円-10万円=5万円が控除額になります。
今年から、医療費控除の特例として、市販薬の購入費を対象にした「セルフメディケーション税制」がスタートしました。セルフメディケーションとは、「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てすること」(WHO世界保健機関による定義)です。
日本の医療費は年々増大しています。その理由のひとつに、「軽い症状で病院にかかりすぎ」という点があげられています。そこで国から「軽度な疾患は自分でケアしていこう」という方針が打ち出され、「セルフメディケーション税制」がスタートしました。
セルフメディケーション税制(以下SM税制)は市販薬の購入総額が1年間で1万2000円以上の場合に利用できます。こちらも生計を一にしている家族の分を合算できます。市販薬のレシートは1年間、保管しておいてください。「うちの医療費は年間10万円もかからないけれども、市販薬はけっこう買っている」というご家庭にメリットのある税制です。
ただし、SM税制の対象になる市販薬は「スイッチOTC」(※3)だけです(表1参照)。たとえば、イブプロフェンという成分の入ったかぜ薬などです。対象になる市販薬の箱には、左図のようなマークがついています。マークがついていなくても、レシートに「セルフメディケーション税制の対象商品」であることが明記されています。
また、特定健診(毎年)、各種検診、予防接種などを受けていることがSM税制の条件になりますので、これらに関係する書類も保管しておきましょう。
※1 年間所得が200万円未満の方は、所得の5%が基準。
※2 急を要する場合や、電車、バス等の利用ができない場合。
※3 スイッチOTC:要指導医薬品および一般用医薬品のうち、医療用から市販薬に転用された医薬品のこと。
医療費控除もSM税制も、確定申告の手続きをすると、税金がその分還付されます。併用することはできません。では、どちらがお得なのでしょうか?
各家庭で計算して「控除額が高いほう」を選んでください。たとえば、医療費全体が15万円で、このうちSM税制の対象額が5万円の家庭の場合。医療費控除額は5万円、SM税制控除額は3.8万円で、医療費控除のほうがお得です。(A)
次に医療費15万円のうちSM税制の対象額が7万円の場合。医療費控除額は5万円。SM税制控除額が5.8万円で、こちらのほうがお得になります。(B)
ただし、還付金額は控除額と同じではないのでご注意ください。たとえば控除額5.8万円で所得税率20.42%の家庭の場合、還付金は1万1843円になります。住民税(10%)から5800円が減税され合計1万7643円戻ってくることになります。(C)
確定申告が初めての方は、お住まいの管轄の税務署に電話を。相談窓口の方が応対してくれます。確定申告は毎年2月中旬から受け付けられますが、医療費控除など還付申請のみの場合、それ以前より受け付けています。これから準備しても十分間に合いますよ!