9月になって酷暑から解放され、ようやく過ごしやすい季節になったというのになんとなく体調がすぐれないという人はいらっしゃいませんか?
夏よりも秋の方が体の不調を感じるという人は意外にも多いものです。秋に感じる不調の多くは「秋バテ」と呼ばれるものかもしれません。「夏バテ」は夏の暑さで体力や食欲が低下することにより疲れやだるさなどの不調が現れるもので涼しくなれば回復するのですが、秋バテは夏場の冷房や冷たいものの取り過ぎによって体の
“冷え”が蓄積し、涼しくなる頃に不調として現れる状態を言います。なんとなく不調だけどそのうち治るだろうと思っていると冷えが改善せず、どんどん調子が悪くなるなんてこともあるのです。この季節は雨も多く台風シーズンのため気圧も乱れて「秋バテ」を引きずると更に不調になりかねません。
秋は夏の疲れを回復させ、冬の寒さに備える季節ですので身体を秋に対応させて元気な秋を過ごしましょう。
秋バテの症状としては、冷えの蓄積により胃腸の不調、食欲不振、だるさや疲労感などが多く見られます。このような秋バテの症状に最も適している薬は漢方薬と言えます。漢方薬とは、漢方医学で用いられる薬で、天然に存在する動植物から有効成分を精製した“生薬”を組み合わせて薬としたものです。その昔、中国から伝えられた医学が日本で独自の進化を遂げてできた漢方医学は、西洋医学が具合の悪い部位に対して局所的な治療を行うのに対し、局所的な見方や考え方では治療をせず「病人を診る」という考えのもと、体質を含む全身の状態を総合的に捉えて治療を行います。従って同じ症状でも体質によって選ぶ漢方薬が異なる場合があります。
漢方薬を選ぶ際には説明文書に必ず体質や症状が細かく載っていますのでご自分に当てはまるかどうか確認してください。
漢方薬は空腹時に飲んだ方が吸収が良いとされていますので、食後よりも食前(食事30分前)か食間(食後2時間)に飲むことをおすすめしますが、空腹で飲むと気持ち悪くなるという人は食後に飲んでも構いません。また、香りや味自体にも効果があると言われています。例えば「苦味には熱をとって固める作用があり、心に作用する」や「甘味には緊張緩和・滋養強壮作用があり、脾に作用する」などです。つまり、粉薬で飲むよりもお湯に溶かして煎じたものに近い状態で飲んだ方が香りや味を感じることができ、より高い効果が得られます。
特に食欲不振があって胃もたれの症状が強い人には胃腸の働きを活発にして食欲を増進させる効果のある
「六君子湯(りっくんしとう)」が適しています。漢方医学では五臓六腑(ごぞうろっぷ)の五臓について、心、肝、腎、肺、脾(ひ)と分けて考えます。中でも脾(ひ)は消化吸収の中枢を管理する臓器で、脾の状態が良好なら血流に乗って栄養も体内に行き渡るので筋肉は豊かになり、四肢への滋養も十分となるため、脾が弱ればその逆の状態になると考えます。
この脾の衰弱を治して生気を取り戻し、胃腸の状態を良くする処方が六君子湯です。
六君子湯は無駄な水分を取り除く
「蒼朮(ソウジュツ)」と
「茯苓(ブクリョウ)」、吐き気を抑える
「半夏(ハンゲ)」や滋養作用のある
「人参(ニンジン)」、など胃腸に良いとされる八種類の生薬で構成されています。
脾には水分の代謝を促進する働きもありますが脾が弱って食欲がなくなると胃に水がたまって吐き気を催すことがあります。こんな時にも六君子湯を飲むと胸のつかえが取れ、食欲が回復します。六君子湯はやせ型で顔色が悪く、疲れやすい人、体力が低下して胃腸機能が衰えている人に向いている漢方です。
●蒼朮(ソウジュツ):キク科ホソバオケラの根茎を乾燥したもの
●茯苓(ブクリョウ):サルノコシカケ科のマツホド菌の菌核を乾燥し外皮を除いたもの
●人参(ニンジン):ウコギ科チョウセンニンジンの根を乾燥したもの
「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」は漢方の中で最も有名な処方の一つで、胃腸の働きをよくして体力を回復させ、元気を取り戻すのを助けます。疲労・倦怠感が激しく、胃腸の働きが弱っており、食後すぐに眠くなり、寝汗がある人に適しています。補中益気湯の“中”は胃腸を意味し、
“補中”とは中を補う、すなわち胃腸を丈夫にするという意味があります。また、
“益気”は気を益す、元気を出すということです。処方の中で中心となって働くのが
「人参(ニンジン)」と
「黄耆(オウギ)」で、体力と気力を補い免疫力をアップさせる効果があります。その他に水分循環を良くする
「蒼朮(ソウジュツ)」、炎症を引く
「柴胡(サイコ)」、血行を良くして貧血症状を改善する
「当帰(トウキ)」など十種類の生薬で構成されています。
江戸時代の漢方医、津田玄仙は補中益気湯の適応について次のようにまとめています。これがとてもわかりやすく、現代でも通用する記述とされています。
・手足倦怠:手足がだるい
・言語軽微:元気な大きな声がだせない
・眼勢無力:目に勢いがない
・口中生白沫:口の中に白いあぶくがたまる
・失食味:食べ物の味を感じにくい
・好熱湯:冷たい飲食物より温かい物を好む
・当臍動気:医師の腹診の所見
・脈散大而無力:医師の脈診の所見
補中益気湯は比較的短期間で効果が見られると言われていますので、普段は元気でも疲れが溜まって倦怠感を感じるような場合に試してみてはいかがでしょうか。
●黄耆(オウギ):マメ科のキバナオウギまたはナイモウオウギの根
●柴胡(サイコ) :セリ科のミシマサイコの根
●当帰(トウキ):セリ科のトウキまたはホッカイトウキの根を通例湯通ししたもの
秋バテの原因は冷えの蓄積にあると前述しました。秋バテの冷えを漢方医学で分析すると、血がうっ滞し血流が悪化している
“お血(おけつ)”と、冷たいものの摂り過ぎなどにより水が体内で偏在した
“水毒(すいどく)”に分けられます。お血の状態になると、血流の悪化により熱が運ばれにくくなった結果、便秘や月経痛、肩凝り、肌荒れなどが起きやすくなります。
お血を改善するためによく使われる薬が
「当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)」や
「温経湯(うんけいとう)」です。当帰芍薬散は別名「女性の漢方」とも言われるほど女性によく使用される漢方薬です。脾の働きが弱いために栄養摂取が滞りがちで比較的体力が乏しく体内に水がたまりやすくて冷え性かつ貧血気味、顔色は青白いという人の冷えから来る不調を改善します。処方に含まれる
「当帰(トウキ)」には血液凝固阻害作用を示す
「アデノシン」という成分が豊富に含まれており、これがお血を改善すると言われています。
温経湯は血液循環を良くして手先のほてりをとる一方、体全体をあたためる作用があります。冷え性で体力があまりなく、皮膚や唇がかさつく人に適しています。温経湯も当帰を含み、他にも血流増強作用を持つ
「川きゅう(センキュウ)」や
「人参(ニンジン)」、
「生姜(ショウキョウ)」も入っています。
●川きゅう(センキュウ):セリ科センキュウのひげ根を除いた根茎を、湯通しした後乾燥したもの
●生姜(ショウキョウ):ショウガ科ショウガの根茎
●阿膠(アキョウ):ウシ、ブタなどの哺乳動物の皮、骨、腱、靭帯から造られたゼラチン
7,020円(税込)
【当帰芍薬散の処方】
当帰(トウキ)、川きゅう(センキュウ)、芍薬(シャクヤク)、茯苓(ブクリョウ)、蒼朮(ソウジュツ)、沢瀉(タクシャ)
2,052円(税込)
【温経湯の処方】
麦門冬(バクモンドウ)、半夏(ハンゲ)、当帰(トウキ)、甘草(カンゾウ)、桂皮(ケイヒ)、芍薬(シャクヤク)、川きゅう(センキュウ)、人参(ニンジン)、牡丹皮(ボタンピ)、呉茱萸(ゴシュユ)、生姜(ショウキョウ)、阿膠(アキョウ)
水毒の状態では体内の水分量が多かったり偏ったりしているため、水分がたまっているところに冷えが起きて、胃腸の不調や頭痛やむくみ、耳鳴り、頻尿などの症状が起きやすくなります。水毒には水分循環を良くする漢方薬を使用します。
「苓姜朮甘湯(りょうきょうじゅつかんとう)」は、腰から下の水分代謝の悪化によって起こる下半身の重感、痛み、夜間の頻尿といった症状に使います。体力のあまりない人で、尿量や排尿回数が多いことも使用の目安です。
「茯苓(ブクリョウ)」、
「乾姜(カンキョウ)」、
「白朮(ビャクジュツ)」、
「甘草(カンゾウ)」という四種類の処方で、生薬それぞれの名をとって苓姜朮甘湯と名付けられています。茯苓と白朮は水分循環を改善して尿量をコントロールしてむくみを取り、乾姜が身体を温めます。
苓姜朮甘湯が腰から下の冷えに効果があるのに対し、
「人参湯(にんじんとう)」はお腹の冷えを改善します。滋養強壮薬でもある
「人参(ニンジン)」は胃腸機能を高め体力や気力の回復を助けます。
「蒼朮(ソウジュツ)」は無駄な水分を取り除く作用があり、もたれや下痢に効果的です。人参湯は体力虚弱で、疲れやすくて手足などが冷えやすい人の胃腸の症状を改善します。
●乾姜(カンキョウ):ショウガ科ショウガの根茎を蒸して乾燥したもの
●白朮(ビャクジュツ):キク科のオケラの根茎の周皮を剥いで調製したもの
●甘草(カンゾウ):マメ科カンゾウ属植物の根や根茎を乾燥したもの
3,888円(税込)
【苓姜朮甘湯の処方】
茯苓(ブクリョウ)、乾姜(カンキョウ)、白朮(ビャクジュツ)、甘草(カンゾウ)
3,780円(税込)
【人参湯の処方】
人参(ニンジン)、蒼朮(ソウジュツ)、乾姜(カンキョウ)、甘草(カンゾウ)
暑い夏には当然水分をたくさん摂りますが、その摂り過ぎた水分をうまく排出できず体が水浸しになってしまうと水毒が悪化して浮腫みが起こり、身体が極度に冷えてしまうことがあります。口の渇きがあり尿量が少ない人で、飲んだ水が胃の中でチャプチャプと鳴ったり、雨や台風の前の気圧の変化で頭痛が起こる、浮腫みがある、水様性の痰や鼻水がダラダラ出るような場合は水毒に陥っているのかもしれません。そのような場合は
「五苓散(ごれいさん)」を試してみてはいかがでしょうか。五苓散は主薬である
「猪苓(チョレイ)」を始めとして
「茯苓(ブクリョウ)」、
「蒼朮(ソウジュツ)」、
「沢瀉(タクシャ)」の4種類の利尿作用を持つ生薬に、発汗作用・発散作用のある
「桂皮(ケイヒ)」を加えた処方です。利尿作用を持つ代表的な漢方薬で、水分循環を改善し、無駄な水分を取り除きます。
●蒼朮(ソウジュツ):キク科ホソバオケラの根茎を乾燥したもの
●茯苓(ブクリョウ):サルノコシカケ科のマツホド菌の菌核を乾燥し外皮を除いたもの
●人参(ニンジン):ウコギ科チョウセンニンジンの根を乾燥したもの
身体の冷えを取るために入浴を有効活用しましょう。
38~40度くらいのぬるめのお湯にゆっくりつかり身体の芯まで温めてください。入浴剤を使用する場合は温浴効果の高いものを選びましょう。
入浴剤には色々なタイプがありますが、
「硫酸ナトリウム」、
「硫酸マグネシウム」、
「炭酸水素ナトリウム」、
「炭酸カルシウム」などの温泉成分が入っている入浴剤は、成分が皮膚表面の蛋白質と結合して膜を形成し、この膜が熱の放散を防ぐことにより入浴後の保温効果を持続させます。
「炭酸ガス」を発生させる入浴剤では、湯に溶けた炭酸ガスが皮下内に入り、血管を拡張させて血流を良くして全身を温めてくれます。