ホーム  >  セルフメディケーションコラム  >  第56回 薬にまつわるSNSのはなし

専属薬剤師監修のオリジナル記事「知っておきたいセルフメディケーションコラム」健康管理には、日頃から適度な運動と栄養バランスのよい食事に気をつけ、しっかりと睡眠時間をとり、自然治癒力を高めることが大切です。 かぜや軽いケガなどの軽度な体調不良は、OTC医薬品(一般用医薬品)を利用して、自分で手当てすること(セルフメディケーション)も健康管理に役立ちます。体との関係を知って上手に取り入れましょう。

2021.11.11

第56回 薬にまつわるSNSのはなし

最近、SNS上で薬にまつわる投稿をしばしば見かける気がします。
現場を離れている私には、巷でのみなさんの薬への考え方や使われ方を知ることができ、いつも興味深く楽しんでいます。
たまたま私のスマホの日常的な閲覧履歴がそれらを引き寄せているだけか、世の中のコロナ渦での不穏な空気感がそうさせてしまったのか、そこはわかりませんが、薬について悩んでいるみなさん、とても多いですね。
あまり知られていない疾患を広く知ってもらうためだったり、同じ病気でつらい思いをしているみなさんが共感しあえる場になっていたり、SNSにはたくさんのメリットがあると感じる一方で、少し気になる一面もあり、今回はそのお話をしたいと思います。

ここが気になる

処方箋薬、OTC薬問わず、薬に関する質問をSNS上にあげる方がいます。
「○○は効きますか」「△△とどちらがいいですか」などです。
どんな答えを求めての質問なのでしょうか。さらには、第三者として閲覧されるみなさんは集まった情報を、どのように解釈しているのかな、という点が非常に気になります。
そして、コメント欄にはアドバイスや経験談が何かしら寄せられていて、みなさん本当に善意で、役に立ちたい思いが文面から十分に読み取れるので、大変申し上げにくくはありますが、中には誤った情報が広まってしまうのではと心配になる書き込みもそれなりにあります。
「母が薬剤師です」などと書かれているものも、そのことは嘘ではないのでしょうけれど、コメント内容を読むと「そうではないんだけどね…」と思える、おそらく解釈を誤って伝えてしまっていることもしばしばです。

質問する側が気をつけたいこと

たとえば、AとBはどちらが強いですか?の質問です。
これは、ステロイドのように強さのランク付けが確立しているものを除き、人により、またはその時々の症状に合うかによるとしかいえないのです。
たとえていうところの、「黒い服と白い服はどちらが素敵ですか」の質問と同類です。
好み、体形、TPOにもよりますし、その人のことをよく知りもしないで、どちらとも言い切れないですよね。もちろん正解なんてものもありません。
「Aの方がよく効いたよ」というコメントの方が多かったとしても、臨床試験のように母集団を適正に設定しているわけでもない中で、たまたま偶然にAが合う人がそこに集まってしまっただけだったりすれば、こわいことだなと思います。
知らない情報に触れることができたり、情報交換の場として有効に活用できることもありますので、質問をすること自体を一概に否定まではしませんが、「黒い服と白い服」の感覚で「そういう人もいるんだなぁ」程度にとらえておくのがちょうどよいです。

関係者はコメントしません

もしかして専門家が見てくれていたらなにか教えてもらえるかも、と淡い期待をもたれるのでしょうか、「詳しい人いたら教えてください」と実際に書かれている投稿を見かけたりしますが、おそらくそのご期待にはそえないと思います。
実際に、医師、薬剤師等の医療関係者がコメント欄で何か助言することは、ほとんどありません。
不特定多数に閲覧されるであろうSNSのような場で、言葉を発することの責任の重みを考えると、コメントできるとすれば、よほどの危険行為を阻止すべき時か、誰にとっても害にならないような最大公約数的な情報にとどまるでしょう。
SNSの情報量では、適切なアドバイスができるに足る患者さんの病状や体質を知ることがまず困難です。もしその患者さんが特定の薬を服用できない体質をもっていた場合など、とくにそれを本人も自覚していないケースなどでは、最悪、生命をおびやかすかもしれない危険性も熟知しているだけに、うかつに無責任な助言などできないのです。
~人により合う、合わないとは~
なんとなく漠然とした、言い訳にも聞こえてしまいそうなこの言葉ですが、どういうことなのでしょうか。
たとえばわかりやすい1つの例として、お酒に置き換えてみます。体質によるお酒の強さというのは、肝臓でつくられる代謝酵素の働きの強さに起因しているのはみなさんご存じと思います。この代謝酵素の働きが活発な人はお酒に強いという差につながりますが、これと同様です。
全てではありませんが多くの薬は、体内に入ると肝臓において代謝酵素の作用をうけています。肝臓で産生される酵素は複数ありますので、薬剤の性質によりどの酵素でどのように代謝され、それが効果を強めるか弱めるかは薬ごとにさまざまですが、ひとくくりにいってしまえば、肝臓のはたらきの状態が効果に影響するということです。
人により、またはその日の体調により、効果に差がでるのはこういうわけです。

コメントされるみなさんに伝えたいこと

よかれと思ってのコメントも、必ずしも万人にとっての正しい情報になるわけでないことをよく理解していただけるといいなと思います。
セルフメディケーションを越えた少し深い話になりますが、SNS上には精神科に受診されている患者さんの投稿も多いです。精神科薬は効果の出方も個人差が大きく、薬の調整は非常にデリケートですので、ちょっとしたひとことが治療の妨げになったり、主治医との信頼関係を壊すきっかけにもつながる可能性があることを、ぜひ知っておいてください。
SNS

誰かに質問したくなった時は

なぜSNS上で質問してしまうのかは、理解できます。
医師に受診することができない事情があってOTC薬でなんとかできないか、受診はしているけど主治医に言いにくい、周りの人にきいたけどこれといった解決策が見つからない・・・その辺りでしょうか。
そんな時にぜひ選択肢に入れていただきたいのは、薬局に足を運び薬剤師に相談してみることです。処方箋がなくても大丈夫です。より身近に活用してみてください。
高い薬を売られそうになったらどうしようなど心配はいりません。本人にきちんと納得して服薬していただきたい思いがあるので、すすめられた薬がしっくりこないようであれば何も買わずに帰ってくることがあっても全く気にすることはありません。

もちろん薬局も商売ですから売上があがるにこしたことはないですが、それ以上に相談にいらした患者さんが、「やっぱり薬はやめて生活改善から始めてみよう」だったり「OTC薬ではだめそうだから、明日病院に行こう」など、たとえ買わなくてもまた前向きな一歩を踏み出せるような、なんらかの答えを見出して薬局を後にしてくれる方が、薬剤師としてはよっぽど満たされます。
すぐに受診が必要と思われるケースや、OTC薬が適さないと判断したときは、薬剤師側からお売りしないこともありますし、OTC薬をやめて受診に切り替えるポイントなどもお伝えできます。
一般論ではない、みなさんそれぞれに適したアドバイスができるところは、SNSでは得られない大きなメリットですので、これからはお気軽にご相談してみてはいかがでしょうか。

おわりに

私もSNSは大好きで、見るのはもちろん、自分の日常の記録として写真や動画をアップしたりして日々楽しんでいます。ちなみに私のアカウントには薬剤師的要素は1ミリもありません。その類いの発信といえば、こちらのコラムで精いっぱいです。
そんな中、先日、大変珍しいものを見ました。人生初、ドクターイエローです。ちょうどオフィスから見える東京駅ホームに停車中で、撮り鉄さんもいらしているのが見えました。
実は、生まれてこのかた誤解しており、ドクターイエローといえば黄色の車体と思っていましたが、JR東日本は白だったのですね。上司に教わり、だいぶ驚きました。
さっそく、これは!と思い、SNSにアップしたところやはり私と同じ思い込みの人がいて「え、どれ?」となったようです。
これからの季節は、街並みのイルミネーションが綺麗なので、会社帰りのバスの車窓から動画を撮って、またアップしたいなと楽しみにしているところです。