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専属薬剤師監修のオリジナル記事「知っておきたいセルフメディケーションコラム」健康管理には、日頃から適度な運動と栄養バランスのよい食事に気をつけ、しっかりと睡眠時間をとり、自然治癒力を高めることが大切です。 かぜや軽いケガなどの軽度な体調不良は、OTC医薬品(一般用医薬品)を利用して、自分で手当てすること(セルフメディケーション)も健康管理に役立ちます。体との関係を知って上手に取り入れましょう。

2021.8.12

第55回 続・薬剤師という職業

前回、薬剤師不要論などをとりあげ、その原稿をちょうど書き終えたころ、社内回覧で見つけました。
「小学生がなりたい職業」~女子1位は薬剤師~
これはまた驚きです。薬剤師はいらないと言われたり、なりたいと言われたり・・・若干の困惑はありつつも、興味を持っていただけることは率直にうれしいです。
なりたい職業ランキングといえば、youtuber、プログラマー、アイドルなどのいまどきのキラキラした業界ばかりを想像していたのでとても意外でしたが、はたして小学生の目に映る薬剤師像とは・・・?周りの大人のみなさんの影響もあるのでしょうか。
そんなわけで、みなさんの思い描く薬剤師のイメージは本当なのか?を解明すべく、前回にひきつづき今回も薬剤師のリアルをお届けしていきます。

気になるお金のはなし

はじまりからお金の話題もどうかと思いますが、1番と言っても過言ではない頻度で私自身がよく聞かれ、どうやら多くのみなさんが気になることのようなので、ぜひその辺から始めていきましょう。ひとことで薬剤師といってもさまざまなので、薬局薬剤師のお話から広げていこうと思います。

薬局は儲かるのか

一般的なことですが、高い給与水準で働きたいと思ったら、儲かる業種に就職することが必須です。そこでまず、薬局自体は儲かるのかという点です。
一概には言えませんが、なかなか難しいのが実状です。「いやいや、そうは言っても世の中に病気がなくならない限り患者さんはくるでしょう?」そんな声が聞こえてきそうなので、さらに深掘りしていきます。

薬局の現実

そもそも薬局開設には、元手が非常にかかります。
薬局の構造設備は薬機法で細かく規定されているため、施設内面積、照明の明るさなどは最低限でもそれに則した建物や設備環境でないと開設ができず、雨風しのげて、薬さえ患者さんにお渡しできればなんでもいいというわけにはいきません。
自動分包機や電子薬歴など高額になりそうなシステム関連は、節約を駆使し、自力でアナログに根性法で!というのも不可能ではないとはいえ、一定数の患者さんを、となるとだいぶ非現実的です。そして何より、いつどんな薬が書かれた処方箋をいただくかわかりませんので、あらゆる薬を仕入れつづけなければなりません。

これらの前提があるうえで、薬局が生みだす利益はというと、薬局から患者さんへの請求額は薬価や保険点数で決められていることや、患者さんが増えれば増えただけ労働とコストも発生するというしくみ上、まさに地道にコツコツな商売です。
私も今の会社に就職して初めて目の当たりにしましたが、資金繰りに困窮し営業を続けられなくなる薬局は少なくありません。薬局経営はそれだけ大変で、儲けたいより前に、使命感が原動力なのだと思います。

お給料事情

初任給は非専門職に比べれば高いです。これは確かで、一般の新卒社会人が入社後に数年かけて働きながら習得していくスキルを、すでに学んできた状態で入社するのでその差はあります。
ただ、その後の上昇具合については千差万別で、意欲的に勉強を続けていくか、どういう働き方を選択していくかによるところがとても大きいです。社会人経験も年数を重ねると、お給料以外の優先したい条件もおりまぜながら、時に転職もしつつステージを変えていく人が多く、年齢があがるほど一般平均年収との差はよくわからなくなっていきます。

好待遇な求人広告のからくり

薬剤師はいいお給料をもらえると思われがちな理由として、薬剤師のパート時給が高いことがあげられると思います。パート求人広告は、誰の目にもとまりやすいところによくあるので、インパクトが強いのですかね。いつでも仕事が世の中にあふれていると思われてしまうのも、ここから来ているのではと感じます。
確かに、パートという働き方だけを考えれば、短時間に効率よく稼ぐという観点はうってつけで、子育てや家事を優先に空いた時間だけ働きたい生活スタイルには好都合です。ですがおいしい話ばかりでもなく、平日午前などの働きたい人が集中する人気の時間帯は、期待するほどの高時給ではなかったり、すでにスタッフは充足していて募集が少なかったりもします。
では、パートではなくフルタイム勤務のお給料はというと、パート時給をそのまま換算してあてはめるのは妥当ではないと思います。概念的には、一般的なスーパーやレストランにおけるバイトさんと社員さんとの関係といったらおわかりいただけるでしょうか。
~本気で稼ぎたいと思ったら~
これは出稼ぎです。1週間~1か月程度、住居付きで地方へ派遣される薬剤師です。もはや一般のパート薬剤師の時給の比ではありません。
薬剤師には派遣登録システムがあり、地方に限らず都市部でも、特定の1日~数か月間にスタッフがどうしても足りないとSOSを出した薬局情報が公開され、事前に登録していた薬剤師の中からマッチングされるしくみです。
数日単位であれば、転職中で次の入社までの空いた期間の活用や副業もありますが、私の知るかぎり出稼ぎとなると、資金調達目的が多いようです。生活の中心が趣味活動、または何か他に起業やビジネスプランがある場合などです。破格時給の出稼ぎ先は人気が高く、熾烈な激戦のようで数分で募集が終了しているのをよく見ます。
おもしろそうに聞こえますが、非常に難易度が高く、どんな処方箋にも即戦力でこたえられること、環境へ即座の順応性など、ハードルは多々あります。私も憧れて何年か前に登録したことがありますが、オファーはまだ来ません(笑)。

実際に働いて感じるギャップ

みなさんが思っている以上に、サービス業的要素が強いです。窓口で患者さんと円滑にコミュニケーションができるのは当然として、患者さんの生活にどれだけ寄り添えるかも重要で、難しいところです。
風邪程度であれば、そこまで立ち入ったヒアリングはしませんが、要介護など重度の患者さんでは、家族構成、経済事情といった患者さんのおかれた環境まで理解し、自分に何ができるかを考えないとなりません。在宅患者さんとなると定期的に家の中までお邪魔してご家族にもお会いし、生活自体が見えやすくなるので、単に薬をお渡しする以外に考えることが増えてきます。
傍からの印象や、私自身も働いてみるまでは、薬剤師とはひたすら薬に向き合うイメージで、その延長に患者さんがいるくらいにとらえていましたが、実際は、患者さんに向き合うことがまず第一で、そのうえで必要な時に必要な知識を引き出せるようにしておくくらいの感じです。
薬剤師
みなさんが思っている以上に、薬剤師は患者さんのことをよく見ていますし、記録もしますし、きちんと覚えています。たまにしか薬局行かないな、というみなさんも積極的に話かけてみるのはどうでしょう。薬剤師側としては、薬の相談に関わらず雑談でもうれしいものです。
それからもし、薬学を志そうとする若いみなさんがこれを読んでくださっていたら、薬と同じくらい患者さんを好きになれるかをぜひ考えてみてください。

薬剤師はいつでも売り手市場?

たしかに、家を失うほどに追い込まれた人をまだ見たことはありません。こだわりを持たなければ、食べるに困ることもなさそうです。この安心感はありがたいことです。ただ、仕事を選べるかというとそこまでは難しいかもしれません。
薬剤師の中でも、どんな診療科、どのくらいの規模の病院か薬局か、在宅訪問の有無などさまざまで、さらに医療現場以外でも企業内薬剤師や研究開発職など道は細かく分かれます。
そのなかで自分の目指す形が実現できるかは、本人の努力はさることながら、運とタイミングによるところも大きいです。一般社会と同様、どんな時代に卒業したかも重要なので、就職氷河期世代とアベノミクス世代では、やはりキャリア構築の傾向が異なります。医療系は景気の影響を受けにくい安定的なイメージはあるかもしれませんが、そうとばかりも言えず、地味に薬剤師内での格差が生まれている事実も否めません。
~薬剤師あるある~ “視界に入る薬全てに反応しがち”
身内が飲んでいる薬はいうまでもなく、レストランの隣のテーブル客までも薬を飲んでいるのが見えると、何の薬かな?体調どこが悪いのかな?と勝手に心配します。道路に落ちているPTPのゴミを見ては、「ああ高血圧の患者さんが歩いていて落としちゃったのか・・」と思いをはせ、医療ドラマを観れば、「その症状にそれなの?」とツッコミが生まれます。

おわりに

女子小学生の憧れに匹敵する魅力はありそうでしょうか。今後も末永く、ランカーでいられるよう私も自らを磨いていかないとなりませんね。
ちなみに私の幼い頃からの夢は美容師さんでした。高校1年生の進路調査で美容専門学校へ進学希望と記入したところ、即刻家族会議が開催され今に至ります。なので、いまだに美容師さんやヘアメイクさんへの異常な尊敬の念がとまりません。
小学生のころの夢の職業につける人って、どのくらいいるのでしょうね。