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専属薬剤師監修のオリジナル記事「知っておきたいセルフメディケーションコラム」健康管理には、日頃から適度な運動と栄養バランスのよい食事に気をつけ、しっかりと睡眠時間をとり、自然治癒力を高めることが大切です。 かぜや軽いケガなどの軽度な体調不良は、OTC医薬品(一般用医薬品)を利用して、自分で手当てすること(セルフメディケーション)も健康管理に役立ちます。体との関係を知って上手に取り入れましょう。

2021.6.3

第54回 薬剤師という職業

薬剤師にワクチンは打てる?

新型コロナワクチンに対応できる医療スタッフの不足が問題になり、ワクチン接種の迅速化のため、薬剤師も接種できるようにといった動きが始まっていますね。 このニュースを初めて目にした時、私は思わず二度見しましたが、みなさんの印象はどうでしょうか。 薬剤師に接種されることに抵抗はありませんか。
 法的な規則 
今現在の法律上、薬剤師は接種できません。 これは医師法第十七条に「医師でなければ、医業をなしてはならない。」と定められているためです。 医業とは医行為を業として行うもので、ワクチン接種も医業です。 最近では、体温や血圧などのバイタルチェック、外用薬の処置など一部は医行為から除外されていますが、それも決められたルールの下で行えるもので、一般的には薬剤師が患者さんの身体に直接触れることは、あまりありません。 多くの患者さんが医師より薬剤師の方が気軽に話しかけやすいようで、高齢の在宅患者さんのご自宅では特に、塗ってほしい、貼ってほしいといった訴えは多く、全てをしてあげられるわけではないのが薬剤師として心苦しいところです。
 スキルの問題 
では法的にはできないとしても実際、技術的にはできるのかというお話です。
それはやはり、入念なトレーニングが必要でしょう。 たしかに薬学生時代に、注射液の充填や希釈、注射針や点滴の取り扱いについて一通りは実習を行います。 ただし、実際に投与した経験があるのはマウス、ラット、ウサギ、イヌ・・などの実験動物達だけです。 たどたどしくウサギの耳の静脈を探していたようなレベルでしたので、当時は徐々には慣れましたが、それでも「さぁ、これから国民にコロナワクチンを!」と人間を相手にするのはかなり飛躍するかと個人的には思います。
6年制を卒業されている薬剤師のみなさんは、まだ記憶も新しく、もう少し充実した教育を受けられているかもしれませんが、私のような4年制卒世代としては、年月も経ってしまっているので、歯科医師・獣医師さんとひとくくりで「注射経験あり」とされてしまうと、ひたすら恐縮するばかりです。
もちろん個人的には、機会があればしっかりトレーニングも受けて、もしくは接種補助業務だけでも、ぜひとも協力したい意欲はあります。
ただそもそも、私のような医療現場を離れた人間でも需要があればの話ですが・・・
薬剤師

「薬剤師っていらなくない?」ってどうなの?

この職業を疎ましく思う人もいるのですよね。 薬剤師がネット上の書き込みに『袋詰め職人』と称されているのを見たときは、この絶妙なネーミングセンスに可笑しさがこみ上げ、反論意欲も萎えました。
袋詰め以外にも、患者さんの命にも関わる責任の重い業務をたくさん担っていることは言うまでもありませんが、一般のみなさんの目に見えている薬剤師のイメージというのがわかりやすく伝わってくる、ユーモアあふれる描写に笑うしかないですね。
 薬剤師への誤解 
おそらくみなさんが思い浮かべる薬剤師像は、調剤薬局の薬剤師なのでしょう。 調剤薬局といえば、医師の診察だけでもそれなりに待ったあげく、さらに調剤薬局でまた待つというこのプロセスの長さは、ただでさえ体調が悪く早く帰りたいところ苦痛でしかないです、それは私も同感です。
ただこれは薬剤師資格の存在や、調剤薬剤師が悪いわけではなく、院外処方のしくみによるものなので、どうか誤解なきようご理解頂きたいところです。
 薬剤師資格がなくなったらどうなるの? 
医療現場としては、薬を使用している限り薬の周囲に発生する業務自体はなくならないように思います。
袋詰めのように誰でもできる作業もあれば、投与量の確認など薬に精通している人でないと危険な内容もあります。 薬剤師不要論の理由として、薬のことは医師がわかるからという意見もありますが、これらの薬関連の業務までを全て医師が行うのは相当な負担と思われます。 経営者目線でもその分、医師を多く雇うのはコストの問題もあるのでしょうか・・・ とすると、日本の医薬分業の方針が大きく変わらない限り、ある程度は薬に専門性をもった人がそれらの業務を担う必要があるという環境そのものは、存続するのかなと思います。
 薬局、医療現場以外の薬剤師の活躍場所 
薬剤師の働き方はどう変わるでしょう。
現状からみてみますと、2018年の統計上、日本の全薬剤師のうち薬局勤務は約60%、医療・介護施設勤務は約20%、それ以外(大学、薬品関連企業、行政など)が約20%でした。
厚生労働省 薬剤師統計
ところでみなさんは医療に従事していない薬剤師の存在はどのくらいご存じでしょうか。
大学や薬品関連企業がそれにあたりますが、この分類に該当する人は薬剤師資格を使わずに働いているケースも多いです。 免許状の紙1枚とは無関係に、専門的知識やスキルのみを活かして社会で活躍している職種です。 よって資格制度がなくなると、この部分の比率が上がる可能性は考えられますね。
ちなみに私は「卸売販売業に従事する者」に該当し、薬剤師免許は東京都に届け出ています。 薬剤師がいらないとなれば、失業する側の人です。 自分はどうかと考えると、さすがに自分のしてきたことが社会からは不必要と判断されて無くなるとすれば、それはもちろん率直にがっかりはします。
しかし知識やスキルまでも失うわけではないので、仕事に対しては、そう悲観的でもなく、私の場合は単純に薬が好きなだけなので、その後も何らか薬に関われる仕事ができたらいいなというくらいです。
薬剤師の中でも賛否両論、意見はさまざまかと思います。 時代の変化とともに、いらないものが淘汰されていくのは自然なことで、このテーマも私たち当事者よりは社会全体が決めることなので、なるようになるのでしょう。 その時々でできることをしように尽きます。

おわりに

今回は薬ではなく、時事ネタにまつわる薬剤師事情や、薬剤師目線での率直な意見をお届けいたしました。 華やかとは言い難く、地味で堅苦しいと思われがちな職業ではありますが、信頼のみならず好感度もあげていけるよう、みなさんに薬剤師をもっと知っていただける情報を今後もまたお伝えしていけたらと思います。