私たちには通常夜に眠り、朝に目覚めるという睡眠リズムが備わっていますが、眠いのに眠れなかったり眠りが浅くすぐに起きてしまったりと、このリズムが障害されるのが不眠です。不眠の原因は様々で、明るさや騒音、気温、寝具の状態などの環境的なものと痛みなどの身体的なもの、薬やカフェイン、アルコールなどの影響があります。最近では特にストレスなど精神的な要因で不眠になるケースも多くなっているようです。
一時的な不眠をそのままにしておくと、また眠れないのではないかという恐怖感や不安感が高まってしまい、この不安感や緊張感が不眠を慢性化させてしまうことがあります。そのままでは心身の健康を損ないかねませんので、ご自分に合った薬を上手に活用したり、眠りの環境を整えるなどの工夫が大切です。
市販の催眠鎮静薬は
抗ヒスタミン薬を有効成分としたものや漢方薬になります。一時的な不眠や短期服用には
抗ヒスタミン薬が適しています。抗ヒスタミン薬は医療用では花粉症や皮膚のかゆみ等のアレルギー疾患に使われています。ヒスタミンには脳の覚醒状態を維持する働きがあり、抗ヒスタミン薬はこの働きをブロックするため眠くなります。この作用をうまく応用して開発されたのが市販の
「睡眠改善薬」と呼ばれるもので、成分として
ジフェンヒドラミン塩酸塩を含みます。
就寝30分位前に服用します。効果は30分から1時間程で現れおおよそ7時間程続きますが、人によっては効果がもっと持続し翌日まで眠気が続いたり、だるさを感じることがあります。市販のかぜ薬や鎮咳去痰薬、鼻炎用内服薬、乗物酔い薬等にも抗ヒスタミン薬を含む物が多いので、一緒に服用すると眠気の作用が強く現れたり、口の渇きなどの副作用が増加する可能性がありますので併用はしないでください。また緑内障や前立腺肥大症、排尿困難の人は症状を悪化させることがありますので薬剤師に相談してください。アルコールと一緒に服用することも、作用が強く現れたり副作用が増加する可能性がありますので避けてください。
不眠症状の裏側には睡眠時無呼吸症候群やうつ病など何らかの病気が潜んでいる場合もあります。抗ヒスタミン薬の服用は2~3日程度にとどめ、不眠が長く続く場合には一度受診しましょう。
漢方薬は身体のリズムを整えることで、不眠を改善します。
生薬の
サンソウニンには鎮静・催眠作用がありストレス等による不眠に効果的です。
カノコソウには睡眠促進、鎮静作用、
ブクリョウには緊張を緩和し気持ちを落ち着かせる作用があります。
ニンジンには強心・強壮作用に加えて精神を安定させる作用もあります。これらの生薬を組み合わせた漢方薬は不眠の症状に応じて選ぶことが大切です。
寝つきの悪い場合には
『酸棗仁湯』や
『黄連解毒湯』、
『抑肝散加芍薬黄連』が良いでしょう。
『抑肝散加芍薬黄連』は小児でも飲むことができ、夜泣きや癇の虫にも使えます。
途中で起きてしまう、早朝に目が覚めてしまうといった場合には
『加味逍遥散』、
『釣藤散』がおすすめです。
『加味逍遥散』は女性の冷えや月経不順にも使用される漢方薬ですが、不眠にも効果があります。ぐっすり眠れず翌朝も眠気が残る熟眠障害の場合には
『加味帰脾湯』が良いでしょう。
漢方薬は鎮静作用だけでなく身体の調子を整える効果もありますので、少し続けて服用してみましょう。漢方薬は就寝前の服用ではなく1日3回食前または食間に服用します。
ハーブにも眠りを誘う効果のあるものが色々ありますので、いくつかご紹介します。
カモミールには心身をリラックスさせる効果がありますので、寝る前にハーブティーにして飲むと安眠効果抜群です。牛乳には眠りを導くセロトニンという物質の原料となるトリプトファンが含まれていますので、カモミールと一緒にミルクティとして飲むとより効果的です。安眠効果の他にも身体を温め血行を良くすることで生理痛を和らげる効果もあります。
菩提樹の花と芭は
リンデンフラワーといい、疲労回復の効果があり神経をしずめて安眠をもたらします。イライラして落ち着かない時や心配事があって眠れない時に良いでしょう。
セントジョーンズワートは脳内の神経伝達物質であるセロトニンの量を増やす作用があります。セロトニンは気分を安定させる効果がある上、睡眠導入作用があると言われるメラトニンというホルモンの分泌を促進します。欧米ではうつ病の薬と同等の効果があると認められているようです。ただし、セントジョーンズワートには飲み合わせの良くない医薬品が多いので、何らかの医薬品を服用している人は、必ず薬剤師に相談しましょう。
安眠のためには体を温めることも効果的ですのでハーブティはホットをおすすめします。気持ちを落ち着かせると言われるハチミツを入れるのも良いですね。
お菓子売り場でギャバ配合のチョコレートを見かけたことはありますか。ギャバとは脳細胞の活動を抑える神経伝達物質で、神経を鎮め精神を安定させる効果があります。ギャバが不足すると常に脳細胞が活動したままになり、リラックスできずに精神的な緊張感が続き不眠につながるのです。ある研究では寝る30分前にギャバを摂ることで寝つきがよくなり、深く質の良い睡眠を保つ効果があることが確認されたとの報告もあります。
また
ビタミンB6はギャバの合成に関っていますのでビタミンB6を摂取することで体内のギャバの量を増やすことができます。
人は1日周期でリズムを刻む「体内時計」が備わっており、意識していなくても日中は身体も心も活動状態に、夜間は休息状態に切り替わっています。人の体内時計は1日25時間で地球の自転周期による24時間と1時間のズレがあり、人はこのズレを日々の生活の中で修正しています。この修正がうまくできない人に不眠を訴える人が多いようです。
「体内時計」に働きかけ、覚醒と睡眠を切り替えて自然な眠りをうながしているのがメラトニンというホルモンです。メラトニンは主に光によって分泌が調節されており、朝に光を浴びると体内時計がリセットされ、体内時計からの信号でメラトニンの分泌が止まります。朝、光を浴びてから約14~16時間後に体内時計からの指令によりメラトニンが再度分泌され、休息状態に導かれて眠気を感じるようになります。朝起きたらカーテンを開け、日光を浴びて体内時計をしっかりリセットすることが大切です。
ビタミンB12にはメラトニンの分泌量を調整し、体内時計を正常に保つ働きがあり、不眠にも効果があることがわかってきました。毎日1時間ずつ生活のリズムが遅くなっていく「非24時間睡眠覚醒症候群」という不眠症の病気の治療にも
ビタミンB12が使われています。
カルシウムは興奮や緊張を緩和し、イライラを鎮める働きをもっています。カルシウムとマグネシウムを2:1のバランスで摂ると、神経を静める効果も倍増します。カルシウムと一緒にマグネシウムも摂るようにしてバランスを保つと良いでしょう。
眠りの環境を整えるところから始めるのも良いでしょう。就寝前の脳はリラックスしていることが大切です。脳を興奮させてしまっている要素があれば、それを改善することで不眠を解消できることもあります。
●お茶やコーヒーなどに含まれるカフェインには覚醒作用があり、4~5時間も持続するため、寝る前に飲むと目が覚めてしまいます。また、タバコに含まれるニコチンも寝つきを悪くします。夕方以降はノンカフェイン飲料にしましょう。
●夜中までTVやパソコンなどのモニター画面の明るい光を見ていると脳が興奮状態となってしまう上、今はまだ昼間だと感じてしまい眠りにくくなってしまいます。就寝1~2時間前は強い光を避けて、寝室は適度に暗くしておきましょう。
●お腹いっぱいの状態で就寝すると、眠っている間も消化のために胃腸が活発に働き、夜中に目が覚めたり眠りが浅くなったりします。消化してから寝つくように、夕食は就寝の2時間前までに済ませて寝る直前は食べないようにしましょう。
●日中の過度のストレスが残ったまま寝床に入った時も、神経が落ち着かずなかなか眠りに入りにくくなります。ぬるめのお風呂にゆっくり入ったり、好きな音楽などでリラックスする時間をとると良いでしょう。