口の働きが落ちてくると、今まで当たり前のように食べたり飲んだりしていた行為ができなくなり、むせやすい、誤嚥しやすい、飲み込みがしにくいといったことが起こります。また高齢者の口の病気として歯周病が多く、認知症や糖尿病、骨粗しょう症といった疾患の原因となったり、歯周病菌が誤嚥性肺炎の原因菌の一つであると考えられています。高齢者は免疫力の低下や唾液の分泌量が少ないなどの理由から、より歯周病にかかりやすく、放置していると全身の健康を損なうことになります。とくに鼻や胃瘻から経腸栄養を行っている場合、口の中のケアを忘れがちですが、常に口の中を清潔に保つことが重要です。

「口腔」とは、口から喉までの空洞の部分で、口の中全体を表します。この空洞には、歯や歯肉、粘膜上皮、唇、頬などがあります。この口の中の機能を守るためのケアを口腔ケアといい、口腔清掃により歯垢や食物残渣を除去し、口腔内を清潔に保ちます。口腔清掃は、人によって状態が異なるため、その方に応じた方法を選ぶことが必要です。これには
(1)ブラシ（歯ブラシ、歯間ブラシなど）を使用する機械的清掃法と
(2)薬剤（消毒薬など）を使用する化学的清掃法の二つに分けられます。
ブラシを使用する方法の方が消毒薬を使用するより効果が高いといわれています。ブラッシングをすることで、バイオフィルム（複数の細菌が集まったねばねばした塊で感染症をひき起こす原因となるもの）を破壊することができるため、細菌の減少効果が高いとされています。

口腔ケアを行う目的は、虫歯・歯周病や口臭の予防、味覚の改善、唾液分泌を促進して乾燥を防ぐ、誤嚥性肺炎の防止、摂食嚥下機能の改善をすることで低栄養や脱水を改善することなどがあります。

基本的に食後に行います。誤嚥リスクが高い場合は、食事前や就寝前にも行うとさらに効果的です。放置すれば、どんどん細菌は繁殖していきます。とくに夜間は一番繁殖しやすいため寝る前の口腔ケアは効果的です。

健康な成人では、1日に1.0～1.5Ｌの唾液が出るといわれています。唾液は、細菌やウイルスを殺菌する、胃での消化吸収を高める、細胞の代謝を活発にする、咀嚼・嚥下などを助ける、粘膜を保護し修復を助けるといった働きがあります。唾液が十分分泌されていれば、唾液の自浄作用によって口の中の細菌が減ります。唾液を出すのに一番よい刺激は「食べること」です。そのためには口の中が乾燥をしていては唾液をうまく出すことができないため、口の乾燥防止対策も必要です。

口は、「食べる」ということに結びついた機能だけでなく、人と人とのコミュニケーションをとるのにも大切なところです。会話をし、そして笑う、悩むなどといった表情をあらわせることで、より人間関係をよくする助けとなるでしょう。おいしく食べられることはもちろん、歯周病や肺炎の予防、コミュニケーションをとることなど、生きることを支える大切な「口腔ケア」を忘れず行いましょう。