在宅診療を先進的に進めてこられた西田医院(東京都調布市)と、
オンライン診療を導入された純子ウィメンズクリニック自由が丘(東京都目黒区)を訪ねました。
▲西田医院(東京都調布市) 西田伸一先生
東京都調布市。京王線・柴崎駅の商店街を抜けた先に西田医院はあります。
1968年に開院、町のお医者さんとして親しまれてきました。院長の西田伸一先生は、2000年にお父様から医院を受け継ぎました。それまでは大学病院などの救命救急センターに勤務してきました。救急医療の先生が、なぜ、在宅診療を始めたのでしょうか。
「救命救急センターにいたころから高齢者の重症肺炎などを診てきました。せっかく治って退院したのに、またICUに運ばれてくる患者さんが少なくありませんでした。当時は患者さんを地域で見守る、地域連携の仕組みがなかったんですよ。だから自分が医院を継いだら訪問診療をやりたいなと思っていました」
2000年といえば、介護保険が施行された年です。ケアマネジャーや医療的ソーシャルワーカーたちによる医療の地域連携は始まったばかりでした。
「親父が長いこと診てきた患者さんたちが高齢になって、だんだん外来に通えなくなってくる。その患者さんをひとり、ふたりと訪問しはじめたのが始まりです」
その後、この町も住民の高齢化が進み、ひとり暮らしの高齢者、認知症の高齢者も増えています。そこで、思い切って午後の診療時間を訪問診療に当てました。現在、60名ほどを往診しています。
いまは外来に自分の足で通う高齢の患者さんから、西田先生はよく、こんなふうに聞かれるそうです。
「いずれ自分はここまで歩いて来られなくなるだろう。そうしたら先生、往診に来てくれるかい?」と。
「みなさん、将来が不安なんですよね。住み慣れた地域で医療が受けられる仕組みをもっと考えていかないといけないと思います」
昨年からのコロナ禍で、往診にはいっそうの注意が求められるようになりました。そして、「コロナ禍で一気に在宅医療の課題があらわになりました」と、西田先生は話します。
たとえば、自宅療養する人には、診断した医師が継続して医療を提供する必要があります。診断医がかかりつけ医であれば当然のことでもあります。しかし、検査だけ行なう医療機関も多く、かかりつけ医のいない人もたくさんいました。とくに、ふだん通院しない人にとっては「かかりつけ医ってだれ?」という状態に。地域の医師たちが連携、分担して対応するものの、ふだんの診療と重なり疲労困憊……。
「この経験を、今後の地域連携に活かしたいですね。オンライン診療も含め、検討していきたいです」
この町には、長いこと「かかりつけ医は西田医院」の住民がたくさんいます。
「それこそ、私が子どものころから知っている患者さんもいらっしゃいます。だから私、あんまりえらそうなことは言えません」と笑う西田先生ですが、こうした親子二代にわたる医院には大きなアドバンテージがあります。
「ほとんどの患者さんの以前の状態がわかりますし、ご家族からもお話が聞けます。とくに認知症が進んでいる方には大事ですね」
認知症の方やその家族のための交流の場として、西田先生は近所の公団で認知症カフェを毎月、開いてきました。しかし、月一回の集いではケアできないと感じ、3年前に医院のすぐ隣に常設カフェ「しばさき彩いろどりステーション」をオープンしました。
ここでは町の人が集まってさまざまな活動が行なわれています。認知症の方や介護を担う方々が気軽に話せて、お茶が飲めて、町の人とつながれる場所です。
「認知症の方にとって、居場所があることは大事です。カフェの帰りに診察に寄ってくれてもいいし。具合が悪くなったら在宅診療につなげやすいですしね」
在宅診療に取り組む西田先生の言葉が心強く感じられました。
●西田医院:東京都調布市柴崎1-64-13 (電話:042-483-1350)
▲純子ウィメンズクリニック自由が丘(目黒区自由が丘) 矢内原純子先生
オフホワイトの壁、大きな窓、おしゃれな外観が目を引く純子ウィメンズクリニック自由が丘。ここには十代から更年期の女性まで、幅広い患者さんが訪れます。今年から「KAITOS(カイトス)」を利用して、オンライン診療を始めました。
オンライン診療を始めたきっかけはSNSだったと、院長の矢内原純子先生は話します。SNSとはインターネットを使った交流ネットワークのことです。
若い女性の生理痛の悩みなどに接するうちに遠方の方や、お住まいの近くにちょうどいい婦人科がなく、相談する先生を探しているという方もいらっしゃって。オンライン診療なら、こういう方々の希望にも応えられるのではないかと、思い切って導入しました」
オンライン診療を行なっている婦人科は全国的にもまだ少ないのが現状です。どんな患者さんをオンラインで診療しているのでしょうか?
「婦人科の場合、やはり対面での診察が基本になります。月経痛や不正出血といった症状であっても、オンラインで話を聞いただけでは診断はできません。一度、採血や超音波検査をする必要があります。その結果を見て、その後当面は薬の処方だけですむ患者さんは、オンライン診療に切り替えてもいいですよね」
たとえば、月経痛でピルを処方されている患者さん。対面での初診後にとくに異常がなければ、次回からはオンライン診療が可能です。お薬は院内処方しているので、クリニックから直接、自宅まで送られてきます。
「漢方薬の処方も、重い副作用がほとんどみられないのでオンライン診療に向いていますね」とくに遠方の方にとっては、交通費と通院する時間が大幅に節約できそうです。
患者さんのなかには、更年期の症状や障害などによって、外出が困難な方もいます。
「たとえば、通院に家族による車での送り迎えが必要な方や、電車に乗ることが苦痛な方もいらっしゃいます。そういう方には、オンライン診療をひとつの選択肢としてご提案していきたいですね」
受診のハードルを下げるという点でも、オンライン診療は期待されています。
純子先生のクリニックでは、対面診療とオンライン診療を併用する患者さんが多いそうです。オンライン診療を選んだ患者さんも、たまには直接、先生に会って話したいこともあるでしょう。先生にとっても、「患者さんと画面を通して会うのと直接会うのとでは、表情や姿勢など得られる情報量が違います。顔色などからわかる変化もありますからね」と、対面診療の大切さを指摘します。
コロナ禍で通院を自粛した人も少なくないでしょう。通院が困難な方、遠方の方、お薬の処方だけですむ方などは、家にいながら受診できるオンライン診療をひとつの選択肢として考えてみてもいいですね。
●純子ウィメンズクリニック自由が丘:東京都目黒区自由が丘2-16-11メイプルヒルズⅡ
(電話:03-3718-1333)
東邦ホールディングス株式会社 薬局共創未来 山田理紗さん
取材・文:佐藤恵菜 写真:押尾健太郎 編集:株式会社デコ(からころ編集部)
出典:からころ65号(2021年12月20日発刊) ※記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。