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専属薬剤師監修のオリジナル記事「知っておきたいセルフメディケーションコラム」健康管理には、日頃から適度な運動と栄養バランスのよい食事に気をつけ、しっかりと睡眠時間をとり、自然治癒力を高めることが大切です。 かぜや軽いケガなどの軽度な体調不良は、OTC医薬品(一般用医薬品)を利用して、自分で手当てすること(セルフメディケーション)も健康管理に役立ちます。体との関係を知って上手に取り入れましょう。

2021.3.11

第53回 薬の保管

みなさんは薬の適切な保管について困ったことはありますか。持病のための常用薬、急な体調変化に備えた常備薬や、外出時の持ち歩き用など、いろいろな場面があると思います。 今回は、薬をどのように保管しておけばよいのか、しばらく保存していた薬が今も使えるか、などと悩んだ際に判断材料にしていただけるような薬の安定性にまつわる基礎知識をご紹介します。
市販薬のみではなく、通院中の処方薬についてもあわせてご参考にしてください。

薬の品質に影響をあたえる環境要因

薬の保管上、品質に影響する主な要因がこちらの3つです。
(1)温度 (2)湿度 (3)光
薬の外箱や添付文書に「直射日光の当たらない湿気の少ない涼しい所に保管してください。」と書かれているのは、主にこの3つから守るためです。
多くのみなさんが最も気にかけるのは温度だと思います。 原則、医薬品業界の規定として、試験または貯蔵に用いる温度を示す際、室温は1~30℃、冷所は1~15℃(別に規定するものを除く)とされています。冷所保存と示されていないものは室温での保存が可能なので、30℃までOKとすると意外と大丈夫なのか…という印象ではないでしょうか。
迷った時はとりあえず冷蔵庫!という考えもあり、それでよい場合が多いですが、一部おすすめできない薬もあります。 薬の剤形や特性よって、分離や結晶化が起こることがあります。その後、室温に戻してかき混ぜるなどし、見た目は元通りになったとしても、その状態での有効性、安全性までは明らかになっていないことがほとんどです。 また、温度の高低差が品質に影響する場合もあります。直接、薬そのものが温度差の影響を受けやすいものと、包装への結露が薬に影響するものがあります。長期的な備蓄用として継続して冷蔵庫に入れておくのはよいですが、冷蔵庫から出したり入れたりを頻繁にくりかえす場合は注意が必要です。
湿度と光に対しては、密封性の高いアルミブリスターや遮光ボトルなどそれぞれの薬の特性に合わせて、もともとの包装容器が工夫されています。よって、元の容器のまま使用する範囲で大きくダメージを受けることはほとんどありませんが、介護などで包装から取り出した状態が続く際には慎重に扱ってください。

使用期限とは

その薬がその時点で使えるかどうかを判断する際、みなさんが最初に見るのは使用期限だと思います。使用期限(有効期間)は何を根拠に定められているでしょうか。 それは、その薬の承認申請時、国の審査をうけて認められた安定性試験の結果がもとになります。
例えば、製造から3年と定められている薬は、標準的な保存条件下で3年間は有効性及び安全性に問題がない事が、承認時の安定性試験において確認できたという意味です。
よくいただく質問の1つに、「使用期限を過ぎた薬は使えますか」と聞かれますが、この「3年」の背景には、4年目のデータで品質に問題があると認められたパターンと、試験自体を3年で終了したので4年目に品質に変化があるかないか不明のパターンがあります。
よって、期限切れの薬の使用はもちろんおすすめできるものではありませんが、みなさんのセルフメディケーションの中で、判断をせまられる事態にもし遭遇してしまった場合には、そのあたりを踏まえてご検討ください。
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薬の安定性試験とは

ここで少し専門的な話題になりますが、医薬品の安定性試験についてご紹介します。 医薬品の安定性試験は、様々な環境要因の影響の下での品質の経時的変化を評価し、使用期限(有効期間)や貯蔵条件の設定に必要な情報を得ることを目的として、承認前に必ず実施されます。

一般的な試験注)

・長期保存試験 25±2℃/60±5%RH 、30±2℃/65±5%RHなど 3~5年程度
・加速試験 40±2℃/75±5%RH 6か月
・苛酷試験
注)品質上、特有の性質がある薬は、試験方法を別に定めます。渦中の新型コロナワクチンもその例で、冷凍庫での保存が必要とされています。
みなさんの生活空間の保存状況や、製造所から医療機関やご家庭までの流通過程を最も想定しているのは長期保存試験で、使用期限(有効期間)の設定にも直結します。 先ほど、冷蔵庫での保管に触れましたが、この試験条件から見ても、やはり意外と冷蔵庫に入れなくても大丈夫なのかな…というところがおわかりいただけるかと思います。 ただ、この長期保存試験はとても有用なデータが得られる反面、名のとおり長期にわたる点が、もともと年月を要する医薬品の承認申請において難点となります。そこで、役立つのが、加速試験です。
加速試験の結果で3年以上の安定性が推定できると判断された場合には、加速試験の結果のみで承認を取得する薬もあります。時々、販売後しばらく経過してから使用期限(有効期間)が延長となる薬がありますが、これは、承認取得時にはまだ長期保存試験の継続中で、販売後にようやく長期での安定性データが確認されたケースです。
また、苛酷試験とよばれる苛酷な環境にどのくらい耐えられるかという試験もあります。 日本の生活空間ではあまりないような高温度、高湿度に置いたり、多量の光を照射しつづけた結果を確認します。

安定性試験データの評価

次に、安定性試験の結果について何を以て“使用できる”と判断するかというお話です。 医薬品は必ず、品質の規格値をいくつもの項目別に設定してあり、そのすべての規格値に適合するかどうかが基準となります。
・性状
・有効成分の量
・不純物濃度:類縁物質(有効成分に類似した別の成分が経時的に生成されます)
・不純物濃度:微生物汚染
・水分含量
・pH
・溶出率(体内に入った時に適切な溶け方をするかを測ります)

など
これらの項目について、試験の1年目は3か月ごと、2年目は6か月ごと、以降は1年ごとといった決められた測定時期ごとに確認します。 前出の使用期限を過ぎた薬は何が起こっているかという疑問に戻ると、性状については見ればわかりますが、それ以外の項目で規格値を外れている可能性があるかもしれません。
「じゃあ、不純物や微生物が規格値を超えてしまった薬を使うとどうなるの?」とのさらなるご質問もよくいただきますが、非常にお答えしにくいところです。 薬の開発時には、有効成分が変化した後についても化学的、生物学的な側面から安全性の検討を行っていますが、それらの不純物や微生物のみを投与するような臨床試験は人道的に実施しないため、有効性、安全性は不明です。
安定性試験はチャンバーといわれる巨大な冷蔵庫のような設備内に試験用サンプルを入れ、温度や湿度などの条件を設定後、測定時期まで絶対に開けません。測定時期に到達する前にうっかり扉を開けてしまってはそれまでの年月が水の泡です。そんな許されない事故が起こらないよう、チャンバーには鎖を何重にも巻きつけ複数の南京錠で守るなどの工夫をします。メーカーにとって、安定性試験結果は年月をかけて得る極めて貴重な財産なのです。

その他の試験

承認審査に関わらず、メーカー独自で実施する実用に寄り添った試験もあります。 医療用医薬品では、他の薬と混ぜ合わせた時にそれぞれが化学反応してしまわないかを見る配合変化試験もそのひとつです。小児用のシロップや粉薬だけではなく、成人用の錠剤でも注意が必要なものがあります。 また慢性疾患薬について実際の患者さんが使用する場面を想定し、1日1回容器のフタを開け数分後に閉めることを一定期間くりかえすなど、独特な試験もあります。
調剤薬局の薬剤師は、容器を開封して分包や一包化をする場合にはこれらの安定性試験データを必ず念頭に入れています。吸湿性、配合変化、蛍光灯の光に耐えられるかなどを処方日数と照らし合わせて確認しています。
調剤薬局の薬剤師はほとんど頭に入っていますが、調剤室の壁に貼ってある薬局が多いです。 もし処方薬について、特殊な環境で持ち歩く予定がある、PTPからうまく取り出せない家族のため無包装で放置するのは大丈夫かなどの疑問があればぜひ薬剤師に質問してみましょう。
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1週間ごとに上下トレーを入れ換えて、2週間分のお薬を、朝・昼・夜・寝る前に区分け整理でき、服用の管理ができます。
このような容器にシリカゲルなどの乾燥剤を入れておくととても良いですね。

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お菓子等の乾燥材でおなじみのシリカゲルを使用した乾燥剤です。

汚染について

食品が細菌やカビなどにより傷んでしまうのと同様に、薬も条件次第では腐敗します。 1回分ずつ包装されているものは問題ありませんが、内服薬のバラ包装やぬり薬など全量が直接空気に触れる包装形態は、可能な限り衛生面に気をつけましょう。 前項で示した安定性試験は、無包装で微生物汚染を確認している場合もありますが、不衛生な環境、不潔な指で扱う、異物が混入するなど日常で起こりうるシチュエーションまでを再現できているわけではありません。あくまでも安定性試験は試験室での結果として参考にするもので、包装に記載された使用期限は未開封の場合です。 錠剤の購入時、バラ包装の容器に入っている緩衝材を服用開始以降も入れたままにする、数回分の携帯用など一時的な小分けを除き容器を詰め替えるなどは厳禁です。
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まとめ

一部を除きほとんどの薬は、清潔で、人が居住空間として快適に過ごせる環境であれば、安心して保存できることが伝わりましたでしょうか。 全ての薬には安定性試験という地道な工程を経てきた背景があり、みなさんが薬を使用するその日まで、有効で安全な品質を保てることの裏付けになっています。
(参考文献)
・第十七改正日本薬局方
・ICH-Q1 安定性試験ガイドライン