ホーム  >  からころ連動企画  >  からころ56「どこシル伝言板」高齢者見守りツール

からころトップへ

からころPick up Topics


 第1回 
~ご自宅への帰り方がわからない高齢者を見守るツール~
どこシル伝言板

「ココロとカラダと暮らしをよりよくしたい! さまざまな新しい取り組みを紹介する新企画「Pick up Topics」がスタートします。
第1回は、認知症などで道に迷う高齢者の『居場所情報』を共有できるツール「どこシル伝言板」です。
いち早くサービスを導入した千葉県松戸市役所にうかがいました。

~ご自宅への帰り方がわからない高齢者を見守るツール~どこシル伝言板

QRコードを使って認知症で行方不明になった方々を『発見』する

ご自宅の場所がわからなくなってしまう高齢者が増えています。でも、なかなかスムーズに『発見』できません。外からは「ふつう」に見えることも多く、保護されても、ご本人の情報を的確に引き出すことが難しい。

これらの問題を解決するツールとして、〈どこシル伝言板〉が注目されています。それらしき人が見つかったとき、即時に介護者と情報共有して、適切に対応できる サービス(自治体向け)です。

「認知症になっても安心して暮らせる街」づくりに取り組む、松戸市福祉長寿部高齢者支援課のみなさん。

千葉県松戸市は、いち早くこのサービスを導入しています。市役所の長島朋子さん(高齢者支援課)に経緯をうかがいました。

「松戸市も高齢者が増えており、市内の認知症患者は推定2万人です。認知症で行方不明になってしまった方については、防災行政用無線を利用して呼びかけを実施しており、平成30年度の放送件数は24件。これまでに放送した方は全員保護されています。今後もさらに認知症高齢者数は増えていくと予想されることから、重層的な見守り体制の構築が必要と考え、防災行政用無線以外にも、オレンジ声かけ隊や見守り協定など、様々な取り組みを実施しています。その中の一つが〈どこシル伝言板〉です」

この〈どこシル伝言板〉の「どこシル」は、「どこにいるかを知るシール」の略で、シールにQRコードがついています。このシールを認知症の方の衣服や杖に貼っておきます。発見した方がスマホなどでQRコードを読み取ると、「どこシル伝言板」が表示され、家族などの関係者に「発見」の通知が届きます。

その方特有の情報も得られます。「右耳は聞こえないので左耳側から話しかけて」「『おじいさん』と呼ぶと怒るので『先生』と呼んで」……とか。初対面でも、より適切な対応が可能になります。さらに、ご本人の様子、発見場所の確認、引き渡しの手順などを伝言板上で送受信できます。

このサービスの大きなメリットは、ご本人が名前や連絡先を答えられなくても、関係者と連絡がとれることです。「個人情報がもれないので安心という声も多いですね。QRコードを読み取っても、ご本人の名前や住所は表示されません。発見者側も、書き込まない。両者ともに個人情報を開示しなくて済みます」

シールは、アイロンで圧着する耐洗式とバッグなどに貼る蓄光式(暗い所で光る)の2種。貼るものによって、使い分けできます。

衣服などに、専用のQRコードシールを貼り付けておくと、発見者がQRコードにアクセス。必要事項を記入して送信すると、保護者にその情報が届く仕組み。

▲衣服などに、専用のQRコードシールを貼り付けておくと、発見者がQRコードにアクセス。必要事項を記入して送信すると、保護者にその情報が届く仕組み。

認知症の方々への声がけがしやすくなる

当初、いちばんの課題は、この〈どこシル伝言板〉の存在をどう市民に知らせるかでした。「市や介護施設の職員、市民ボランティア……と普及活動を拡げていくなかで、少しずつ手ごたえを感じるようになりました。

このサービスを知っていただくことが、認知症の方への積極的な声がけにつながるんです。たとえば、公園のベンチにずっと座っているお年寄りがいたとします。このシールをつけている人には、マタニティマークやヘルプマークのように迷わず声をかけられます。市民が積極的にお年寄りを見守ることができるようになる。このことも大きな成果だと思います」

高齢者見守りシール

松戸市では、〈どこシル伝言板〉を〈高齢者の見守りシール〉と名付けて、認知症の方のご家族に支給しています(*1)。

もしかして徘徊の方かしら……。街を歩いていてそう思うこと、ありますよね。わが街にも導入してほしい!そう思いました

*1:支給対象者は以下のとおり。
●認知症などによって行方不明となり、防災行政用無線により探索されたことがある松戸市在住の高齢者の方
●道に迷った、家が分からなくなってしまったなどにより、警察に連絡または保護されたことがある松戸市在住の高齢者の方
介護施設(グループホームを含む)に入居している方は支給の対象にはなりません。

開発者さんにききました
教えて!「どこシル伝言板」のこと

植田 元気(うえだ・もとき)さん
答えてくれた人

植田 元気(うえだ・もとき)さん
東邦ホールディングス(株) 地域医療連携室

介護施設や在宅医療の現場を経験して、「どこシル伝言板」の開発に取り組む。


 「もっと早く発見できていれば」そんな願いに応えたい 

――〈どこシル伝言板〉のサービスを受けるには?
「お申し込みいただけるのは、自治体です。お住まいの自治体が導入しているか、ご確認ください」

――いま、どのくらいの自治体が導入していますか?
「2019年7月時点で、23都府県、72の市町村に導入されています」

――開発のきっかけは?
「横浜市の施設から外出して行方不明になった認知症の方が、東京都中野区の公園で発見され、熱中症で亡くなりました(2014年8月)。このニュースを聞いて、もっと早く発見できていれば……と。発見地域に関係なく家族に連絡できる仕組みを考え始めました」

――なぜQRコードのシールに?
「かならず、365日24時間、身につけられます。個人情報がもれない。だれでも簡単に扱える。これらの条件を満たせるのが、QRコードのシールでした。 今回、個人情報を載せずに、〈保護時の注意点〉を優先させました。
私にも認知症の叔父がいました。見知らぬ人が「おじさん、大丈夫ですか?」と声をかけると、「お前の叔父さんじゃない!」 と怒りました。こうした情報が事前にわかれば、対応しやすいですよね」

――〈どこシル伝言板〉の可能性は?
「以前、宮城県石巻市の職員さんが『QRコードにカルテの情報があるので災害時にも役立つのでは』とおっしゃっていました。今後、災害時にも役立つサービスとして活用されればいいと願っています」

Facebook

取材・文:株式会社デコ(からころ編集部) 写真:柳大輔 イラスト:磯田裕子
出典:からころ56号(201年9月発刊) ※記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。